査定に役立つブックガイド
元外科医。生命保険のアンダーライティング歴25年。そろそろ前期高齢者。
告知や診断書を見ているとアンダーライティングは常に最新の医療現場と直結していることを実感しますよね。そんな最新医学をキャッチアップしたいと本を読み続けています。そうした読書の中から医師ではなくても「これは面白い!」と思える本をレビューしていきます。レビューだけで納得するもよし、実際に読んでみるもよし。お楽しみください。
読書以外ではジャズ(女性ヴォーカル好き)を聴いたり、大ファンである西武ライオンズの追っかけをやってみたり。ペンネームのホンタナは姓をイタリア語にしたものですが、「本棚」好きでもあるので・・ダジャレで。
ブックガイド(最新号)

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第116回目のテーマは「アレルギーと皮膚」。アンダーライティングと皮膚科はあまり関係がなさそうですが、子供の検査入院でよくみられる食物アレルギーと皮膚には大きな関りがあるのです。また皮膚のアレルギーと言えばアトピー性皮膚炎もよく告知で出てきますよね。アレルギー疾患と皮膚の関りについてはこの十年ほどの間になって大きなパラダイム・チェンジが起こっているのです。 それをバッチリ教えてくれるのが「人体最強の臓器 皮膚の不思議」。著者の椛島健治先生は1970年生まれの京都大学医学部皮膚科の教授です。皮膚免疫が専門ということで、アトピーの部分は読みごたえがあります。読んでわかるのは、皮膚科領域もいつのまにか分子生物学・分子免疫学が研究の主体になっているんですね。免疫の一般論にもかなりページが割かれているのでその勉強にもなります。 まずは、アトピー性皮膚炎の増加という観点から、「衛生仮説」(=きれいすぎる環境が過敏な体を作ってしまう)が掘り下げられています。さらに「アレルギー・マーチ」という概念も面白い。アレルギーは、乳児期に発症するアトピー性皮膚炎に始まって、喘息、鼻炎、食物アレルギーと次々と部位を変えながら一生ついてまわるということが次第に明らかになってきました。 そして、アレルギーの発症に皮膚が大きく関わっていることがわかってきたんです。かつて食物アレルギーは、アレルギーの原因となる食物を口から摂取することで発症するとされていましが、最近では「経皮感作」といってアレルギーの原因が皮膚に触れることでアレルギーを発症の主体ではないかと考えられてきているんです。 本書でも取り上げられていますが、2005年から2010年にかけて国内で販売されていた「茶のしずく」という石鹸が大きな問題になりました。「茶のしずく」石鹸は、小麦由来の成分を使用しており小麦に感受性を持つ人が手洗い・洗顔に使用すると、小麦の食物アレルギーを発症してしまったのです。まさに経皮感作による食物アレルギーが証明された事件です。 これらの知見をふまえて2008年に「二重抗原曝露仮説」という斬新な仮説が発表されました。この説では「食物アレルギーは経皮感作によっておこり経口摂取では起こらない」とされています。例えばピーナッツアレルギーは皮膚を通してのピーナッツ成分や殻への暴露が免疫反応を引き起こし、経口のピーナッツ摂取は逆に免疫寛容を引き起こすのではないかというわけです。アレルギーを恐れて食べさせないことがリスクなのかもしれないのです。アレルギーの原因を摂取しないという考えは、今でも広く根強く残っています。まだまだ新しい考えは広まっていないのが現状です。 本書を読んでいたらちょうどNHKの番組クローズアップ現代で「どう防ぐ?大人の食物アレルギー 意外な原因”を突き止めろ」というのをやっていて「サーファーの納豆アレルギー」「医師のバナナアレルギー」など経皮感作の実例満載でした。Webにテキスト版がありますのでぜひ読んでみてください。いやあ、皮膚科もアレルギーもキャッチアップが必要です。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2023年9月)