査定に役立つブックガイド

Dr.ホンタナ

元外科医。生命保険のアンダーライティング歴25年。そろそろ前期高齢者。

告知や診断書を見ているとアンダーライティングは常に最新の医療現場と直結していることを実感しますよね。そんな最新医学をキャッチアップしたいと本を読み続けています。そうした読書の中から医師ではなくても「これは面白い!」と思える本をレビューしていきます。レビューだけで納得するもよし、実際に読んでみるもよし。お楽しみください。

読書以外ではジャズ(女性ヴォーカル好き)を聴いたり、大ファンである西武ライオンズの追っかけをやってみたり。ペンネームのホンタナは姓をイタリア語にしたものですが、「本棚」好きでもあるので・・ダジャレで。

ブックガイド(最新号)

「子宝」と「長寿」の不都合な関係ーー

「腹八分目」の生物学

小幡 史明 著
岩波科学ライブラリー335 税込定価1,320円 2025年7月刊行

 
 「気楽に読めて、査定力もアップする本を!」というコンセプトのブックガイド、今回のテーマは、誰もが一度は耳にしたことがある「腹八分目」です。

 「腹八分に医者いらず」なんて格言がありますが、実はこれ、最新の生命科学でもかなりガチな結論が出つつあるんです。著者は理化学研究所でショウジョウバエを相棒に「栄養と寿命」を研究している気鋭の研究者、小幡史明先生。岩波科学ライブラリーらしい、コンパクトに自然な流れで「腹八分目」の効果研究のエッセンスを教えてくれる一冊です。

カロリー制限の正体は「アミノ酸」だった?

 かつて、マウスやラットの食餌制限で寿命が延びるという報告が出たとき、世の中は「カロリー制限こそが長寿の鍵だ!」と沸き立ちました。しかし、研究が進むにつれて意外な犯人が浮かび上がってきます。それが「タンパク質」、さらに細かく言えば特定の「アミノ酸」の摂取量だったのです。

 本書では、ショウジョウバエを使った精緻な実験プロセスが紹介されます。炭水化物とタンパク質の比率を変えていくと、面白いことに「タンパク質を控えめにしたほうが長寿になる」という結果が鮮明に現れる。つまり、「食餌制限→アミノ酸低下→mTOR(エムトール)活性低下→寿命延長」だ!というわけです。

若い時の「プロテインがんがん」は短命のサイン?

 ここで、我々アンダーライターや医務職が「おや?」と思うポイントが出てきます。最近、巷では空前のプロテイン・タンパク質ブームですよね。もちろん、不足しているぶんは摂ったほうがいいと本書にもありますが、気になるのは「若いうちの摂りすぎ」です。

 性成長が止まったあとの若いうちにタンパク質をとりすぎないのが、健康寿命延長の秘訣っぽい……だそうです。成長期を過ぎたあとも過剰にアミノ酸を詰め込み、常にmTORをオンの状態にしておくことは、細胞の「お掃除機能」を止め、老化を加速させてしまう恐れがあるのです。告知書に「プロテイン常用」とあっても今はスルーですが、将来的な査定の視点としては、意外と無視できないファクターになるのかもしれません。

「子宝」と「長寿」はトレードオフという冷徹な真実

 今回、読んでいて一番「腹落ち」したのが、生物学における「子だくさんと長寿がトレードオフ(=両立しない)」の関係であるということです。

 「食餌制限による寿命延長は、必ず負の作用を伴う」と著者は断言します。まず第一に影響されるのは成長で、最終的な個体サイズが小さくなる。そしてもう一つの副作用が「生殖能力の低下」です。これは一般的に見られる現象で、栄養を制限して寿命を延ばすという反応は、種としての厳しい環境への適応という生存戦略なのだそうです。

 つまり、「今は飢餓状態だから、子供を作るエネルギーを温存して、環境が良くなるまで個体として生き延びよう」というモードへの切り替え。逆に言えば、タンパク質をたっぷり摂り、次世代を残すための能力を最大化する「太く短い」生き方は、環境が良好な自然界では極めて合理的。しかし、我々人間が求める「細く長い」健康長寿は、ある意味で動物の本質に逆らっているようにも感じ、妙な説得力がありました。

まとめ:絶対の食事法など存在しない

 医療の現場でも、腎機能低下によるタンパク制限がある一方で、筋肉量維持のための摂取推奨もあり、日々「正解」は揺れ動いています。本書も、万人に有益な絶対の食事法などないのだと教えてくれます。

 「それでもお腹いっぱい食べたい」という本能に向き合いながら、科学的アプローチの楽しさを伝えてくれる構成はとても楽しいものでした。夏に向けて、自身の食生活を内省するのにもぴったりです。

 とりあえず、今日からプロテインはほどほどにして、食物繊維の大事さにも目を向けてみますか。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2026年5月)

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