査定に役立つブックガイド

Dr.ホンタナ

元外科医。生命保険のアンダーライティング歴25年。そろそろ前期高齢者。

告知や診断書を見ているとアンダーライティングは常に最新の医療現場と直結していることを実感しますよね。そんな最新医学をキャッチアップしたいと本を読み続けています。そうした読書の中から医師ではなくても「これは面白い!」と思える本をレビューしていきます。レビューだけで納得するもよし、実際に読んでみるもよし。お楽しみください。

読書以外ではジャズ(女性ヴォーカル好き)を聴いたり、大ファンである西武ライオンズの追っかけをやってみたり。ペンネームのホンタナは姓をイタリア語にしたものですが、「本棚」好きでもあるので・・ダジャレで。

ブックガイド(最新号)

こんなに違う、男と女!

テストステロン
ヒトをを分け、支配する物質

ニキャロル・フーベン著
化学同人 税込定価3300円 2024年5月刊行

 
 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第131回のテーマは「テストステロン」、いわゆる男性ホルモンですね。最近、性同一性障害(LGBTQ)や性分化障害(DSD)という告知や入院診断書を見る機会が増えているのではないでしょうか。その中で女性→男性へという治療を受けている場合にはテストステロンを投与されていることが多いです。

 このテストステロン、男の男たる部分を作り出すホルモンですが、昨今のジェンダーフリーの世の中では、「テストステロン=男」とは言いにくい部分もあります。男性の「エラそうな」「暴力的な」「浮気な」などの性質について、それは「テストステロンのせいだから」と言い訳するのは許せない。暴力的で浮気性なのは、ホルモンのせいではなくて、それを許すような男社会のせいでしょう!・・・と、言われてしまいそうです。

 この本はそんなテストステロンについて女性研究者が書いたものです。かっては著者もそういう「ジェンダー平等的な考え方」=「男女の差は、生物学的な差ではなく、歴史が作り上げた男女不平等社会に由来するもので、男女の差を生物としての人間のオス・メスの差にすりかえるのは許せない」派だったのです。しかし、研究をすすめていくとやはりテストステロンの働きは絶大で、男の「エラそうな」「暴力的な」「浮気な」部分はテストステロンがもたらしているということを認めざるを得ないという結論に到達しました。この本にはそうしたテストステロン研究のステップがつぶさに書かれています。

 前半は、テストステロンに関わる疾患である①アンドロゲン不応症、②5-αリダクターゼ欠損症、③先天性副腎皮質亢進症といった性分化障害の実例をあげて、テストステロンが不足したり過剰だったりしたときにどういう症状がでるのか、そしてそれをどう治療していくのかという医学的なテーマからテストステロンの作用を説明します。

 後半は、男女の性行動の違いという視点から見たテストステロンの作用がメインテーマ。この後半は驚きでした。私自身は男性として思春期の性衝動などを経験してきて、これまで思春期以降の性衝動って、男は男性ホルモン(テストステロン)、女性は女性ホルモン(エストロゲン)という違いはあっても、異性に対する感情や性衝動は男女同じように起こるんだろう」と思ってきました。

 しかし、違うんですね。「思春期の男性の全身ぺ○スのような性衝動はテストステロンがもたらすものであり、女性の思春期とはぜんぜん違う」「あの頃あんなに好きだったのは、相手も同じようだとおもっていたのに・・・実は男女で異性に対する好きだという感情はぜんぜん種類が違う」ということをこの歳になって知り愕然としました・・・。この恋愛感情の男女差って男女それぞれわかってないんじゃないかな。「私たち、ラブラブ」って思っているけど男→女の感情と女→男の感情がこれほどまでに違うとは。

 もちろん、思春期に限らずテストステロンの分泌が続いていて思春期のような衝動を抱えたままの中高年男性がいることもみなさんご存知のとおり。クーリッジ効果(←ぜひ読んで見てください。これもまた、身につまされる男性多いのでは?)というのもテストステロンのせいか。管理社会で真面目に生きる上で男がテストステロンを克服することって結構大変ですね。そんな感覚が女性にはないというのも驚きの事実!治療のためにテストステロンを投与された女性が、それまで経験したことのないような性衝動に浮き立つという事実もまた驚きです。

 もちろん、性衝動の話だけではなく、オリンピックの性別問題や性同一性障害(LGBTQ)や性分化障害(DSD)の治療過程におけるテストステロンの作用など、知っておきたいテーマも盛りだくさん。しかし、しかし、「性」に対して、男女がこれほど違うというのが、やはり一番の驚きでした。かなりおすすめの一冊です。

(元査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2024年12月)


ブックガイド アーカイブ


No.131

No.130

No.129

No.128
No.127
No.126
No.125
No.124
No.123
No.122
No.121
No.120
No.119
No.118
No.117
No.116
No.115
No.114
No.113
No.112
No.111
No.110
No.109
No.108
No.107
No.106
No.105
No.104
No.103
No.102
No.101
No.100
No.99
No.98
No.97
No.96
No.95
No.94
No.93
No.92
No.91
No.90
No.89
No.88
No.87
No.86
No.85
No.84
No.83
No.82
No.81
No.80
No.79
No.78
No.77
No.76
No.75
No.74
No.73
No.72
No.71
No.70
No.69
No.68
No.67
No.66
No.65
No.64
No.63
No.62
No.61
No.60
No.59
No.58
No.57
No.56
No.55
No.54
No.53
No.52
No.51
No.50
No.49
No.48
No.47
No.46
No.45
No.44
No.43
No.42
No.41
No.40
No.39
No.38
No.37
No.36
No.35
No.34
No.33
No.32
No.31
No.30
No.29
No.28
No.27
No.26
No.25
No.24
No.23
No.22
No.21
No.20
No.19
No.18
No.17
No.16
No.15
No.14
No.13
No.12
No.11
No.10
No.09
No.08
No.07
No.06
No.05
No.04
No.03
No.02
No.01