査定に役立つブックガイド

Dr.ホンタナ

元外科医。生命保険のアンダーライティング歴25年。そろそろ前期高齢者。

告知や診断書を見ているとアンダーライティングは常に最新の医療現場と直結していることを実感しますよね。そんな最新医学をキャッチアップしたいと本を読み続けています。そうした読書の中から医師ではなくても「これは面白い!」と思える本をレビューしていきます。レビューだけで納得するもよし、実際に読んでみるもよし。お楽しみください。

読書以外ではジャズ(女性ヴォーカル好き)を聴いたり、大ファンである西武ライオンズの追っかけをやってみたり。ペンネームのホンタナは姓をイタリア語にしたものですが、「本棚」好きでもあるので・・ダジャレで。

ブックガイド(最新号)

名医もヤブ医者もいらない時代?

AIに看取られる日 2035年の「医療と介護」

奥 真也 著
朝日新書 税込定価 957円 2025年9月刊行

 
 「気楽に読めて、査定力もアップする本を!」というコンセプトのブックガイド、今回のテーマはAIと医療。AIに診てもらう日が来る?それも「看取られる」日まで?
挑発的なタイトルに釣られて手に取ると、思った以上にリアルで冷静な未来図が描かれていました。著者はベストセラー『未来の医療年表』の奥真也氏。今回は「名医」も「ヤブ医者」も駆逐されるという、ちょっと怖い話です。

名医もヤブ医者も、まとめてAIに消される?

 かつて「名医」と呼ばれたのは、豊富な知識と経験、時に神がかった直感で診断・手術をこなす医師でした。一方の「ヤブ医者」は誤診や不要な治療で患者を振り回す存在。

 しかしAIは数百万の症例を学習し、人間が一生かけても得られない知識を瞬時に共有できる。結果として、「名医の名人芸」も「ヤブの暴走」も同時に駆逐される――というのが本書の骨子です。

 もちろん「人にしかできない寄り添い」や「対話」は残ります。けれども、診断や治療の標準化はもはや避けられない。ガイドラインを誠実に適用できる人こそが評価される時代になる、と奥氏は語ります。

診察室の風景も激変

 すでに医療現場では、診療ガイドラインの外部化、AIによる音声認識やカルテ入力支援(kanaVo、Warokuなど)が始まっています。本書が描く2035年の診察室には「患者・医師・問診ロボット・ChatGPT」が同席し、AIが患者の曖昧な訴えを整理して医師に渡す光景が広がっています。

 「熱が出て……あさって子どもの発表会に行きたくて」といった患者の希望も含めてAIが要約。医師はすぐに本題に入れる。効率化というより、むしろ「人間同士の対話」に集中できる仕組みなのです。

保険業界への接点① ユビーAI問診と告知書

 この未来像、実はすでに一部は現実化しています。国内で普及が進む「ユビーAI問診」は、患者がスマホで回答した内容をAIが整理して医師に提示する仕組み。これ、生命保険の「告知書」と酷似しています。

 契約者がAIに導かれて病歴や服薬歴を答えれば、記載漏れや虚偽告知を減らせる。標準化された質問フローは、後日の紛争予防にも有効です。査定部門から見ても、「AI告知」は将来の本命ツールになるかもしれません。

保険業界への接点② 次世代医療基盤法とデータ活用

 もう一つ重要なのが、データ活用を阻んできた「個人情報保護法」の壁。本書でもその硬直性が批判されています。その打開策として2018年に施行されたのが「次世代医療基盤法」。匿名加工を条件に医療データを研究利用できる道が開かれ、AI診断や新薬開発の基盤が整いました。

 この流れは保険業界にとっても他人事ではありません。医療データはリスク予測や健康増進型保険の商品設計に直結します。AIが医療と保険をつなぎ、契約者にフィードバックを返す時代はすぐそこまで来ています。

まとめ:AIで駆逐されるのではなく、AIを使いこなす

 かつてAI創成期に「真っ先に駆逐される職業」の上位に挙げられたのが、保険の引受判断を担うアンダーライターでした。けれども現実は、AIが査定者を消すのではなく、むしろ強力な道具として横に並び始めています。

 名医もヤブ医者もAIに飲み込まれるかもしれませんが、保険の世界では「AIを使って正確に・効率的に・透明に」査定する人材こそが生き残る。そうした意味でも、本書は単なる医療の未来図ではなく、私たち自身の仕事の未来を映す鏡といえるでしょう。

 さて、読後のおすすめ行動? AIに駆逐されるのを恐れる前に、まずはユビーAI問診の公式サイトをのぞいてみますか。
(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2025年10月)


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