査定に役立つブックガイド
元外科医。生命保険のアンダーライティング歴25年。そろそろ前期高齢者。
告知や診断書を見ているとアンダーライティングは常に最新の医療現場と直結していることを実感しますよね。そんな最新医学をキャッチアップしたいと本を読み続けています。そうした読書の中から医師ではなくても「これは面白い!」と思える本をレビューしていきます。レビューだけで納得するもよし、実際に読んでみるもよし。お楽しみください。
読書以外ではジャズ(女性ヴォーカル好き)を聴いたり、大ファンである西武ライオンズの追っかけをやってみたり。ペンネームのホンタナは姓をイタリア語にしたものですが、「本棚」好きでもあるので・・ダジャレで。
ブックガイド(最新号)
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ーひどい、ひどすぎる!ー
がん「エセ医療」の罠
岩澤倫彦 著
文春新書 税込定価1210円 2024年5月刊行
気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第126回のテーマは自由診療の「がん免疫療法」。最近になってこの自由診療のがん治療の費用を保障するタイプの保険が発売されているようですね。自由診療のがん治療、特に「がん免疫療法」のあやしさって、医師でなければなかなか理解できないのかもしれません。その啓発の意味もこめた一冊です。
国民皆保険ということで誰でも低い負担でほぼ均一な医療が受けられる国、ニッポン。しかし、そんな状況も一歩、踏み外せば深い闇が広がっています。というのは、日本の医療行為の正当性・均一性がある程度保証されている根源は、そうした健康保険制度による監視体制があるからなんですね。
しかし国民の多くはそれを知らないで、医師がちゃんとした医療を行うだけの法律でもあるくらいに思っています。しかし、そんな法律は存在しない。もちろん、傷つけるとか命を縮めるような健康への害が明らかなことを医療の名のもとに行えば、法律に違反するわけですが、それは傷害罪であったり、過失致死罪であったりと刑法の範疇。逆に言えば、害にならない、あるいは毒にも薬にもならない医療行為を行ったとしても、健康保険と関わりなく、自費診療でやる分には、医師と患者の合意さえあればほぼなんでもOK。そういう健康保険外の医療行為を自由診療といい、これまでその代表は美容整形や医療脱毛でした。
そして、今、自由診療のドル箱になっているのが「がん免疫療法」を中心としたあやしい、エビデンスのないがん治療。実は、がん免疫療法は、かつては次世代のがん治療と期待され、1990年代から2000年代にかけてのまさに私が医師になったころには、大学病院などで数多くの研究が行われていたんです。ところが、結局、免疫細胞療法は臨床試験で有効性が立証できず、保険診療として認められなかった。そして、がんには効かないというエビデンスだけが残ったんです。そこに医師人生をかけてしまった同僚もいるので、他人事とも思えない歴史です。
そんな、あやしいがん治療が跋扈していることは、たとえば女優さん(〇島なおみ)や歌舞伎役者の奥さんが不自然ながん死を遂げたときに報道されてきました。ところが、インターネット検索が当たり前の時代になって検索エンジンにヒットすることで多くの末期がん患者がこのあやしいがん免疫療法に取り込まれ、藁をもつかむ思いで、命ばかりか大金を失う事態が広がっているんです。
この本は、そうしたあやしいがん免疫療法を医師名や医療機関名を実名でバンバン紹介(告発?)しているかなりすごい本。もちろん、そうした医師や医療機関からの反発も強いのですが、その反発さえもが記録されているのがハンパないです。驚くのは、個人経営のクリニックならともかく大学病院がからんでいるケースもあることで、特に金沢大学付属病院の敷地内(!)にある金沢先進医学センターの話は、まさに事実は小説より奇なりです。国立大学の教授や付属病院長が退官後にこんなことしているなんて・・・と驚くばかり。ぜひ一読されたし。
保険会社にとっては、冒頭に書いたように、こうした自由診療の実体を知らずに「自由診療費用を保障します」という商品を出してしまうリスクもありますが、せっかくのリビングニーズ保険金がこうしたあやしい免疫療法に吸い取られているという事実もあることをぜひ知ってほしいです。(元査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2024年7月)