前書き
元コロナでオンラインの学会が増えましたが、私は今でも一年のうちに何回か学会に参加しています。そして、ときには保険業界のみなさまにもお伝えしたい最新の知見もあります。そこで、不定期ではありますが、参加した学会の簡単なレポートをこのホームページでお伝えしたいと思います。
学会レポート(最新)
ー2025年5月 第124回日本皮膚科学会総会からー
変貌する皮膚科と美容皮膚科


1.はじめに
2025年5月29日から6月1日にかけて、パシフィコ横浜にて「第124回日本皮膚科学会総会」が開催されました 。横浜の学会は久しぶりで、話題のYOKOHAMA AIR CABINにも乗ってみました(写真上)。片道1000円では日常使いはできませんが、未来風で一度は乗ってみる価値はあります。
あいにく業務の都合で総会のメインセッションには参加できませんでしたが「市民公開講座」に足を運び、会場の熱気を感じてきました 。
今回のレポートでは、特に保険医学への影響という観点から「ガイドラインの変更とホクロの手術」「美容皮膚科の動向:和歌山県立医科大学教授の報告」「乱立する皮膚科・美容皮膚科と民間医療保険への影響」の三つの視点で学会主要な議論を振り返ります。
2.ガイドラインの変更とホクロの手術
今回改訂された『皮膚がん診療ガイドライン第4版』では、悪性黒色腫(メラノーマ)に関する診療の最新エビデンスが大幅に取り入れられました。中でも注目すべきは、ホクロ(色素性母斑)の予防的切除に対する考え方です。
巨大型先天性色素細胞母斑については、これまで通り悪性化リスクが高いため、予防的切除が学童期までに完了することが望ましいとされています。一方で、後天性の一般的なホクロについては、悪性化のリスクが低く、ガイドライン上も予防的切除は原則として推奨されていません。
しかし都市部を中心に、患者からの希望や美容的観点でのホクロ切除が実施されるケースが増えており、診療報酬上も公的保険の適用範囲をめぐる解釈が問題となっています。学会でも、「診断目的の切除」が公的保険の対象となる一方、「美容目的の切除」は自由診療扱いとすべき、という線引きの明確化を求める声が複数あがっていました。
切除後に悪性黒色腫と判明するケースが一定数あることを理由に、医療現場では患者の整容的な求めに応じた切除がなされやすく、その費用を公的保険で賄うことへの是非について今後の制度整理が求められます。
3. 美容皮膚科の動向:和歌山県立医科大学・山本有紀教授の報告
本学会では、美容皮膚科の健全な発展と医療安全の確保に尽力している山本有紀教授(和歌山県立医科大学の病院教授、講座では准教授)の講演が注目を集めました。山本氏は、日本美容皮膚科学会の理事長も務めており、美容医療を「自由診療の枠を超えた医学領域」として確立することを目指しています。
講演では、ケミカルピーリングやレーザーなどの施術に関するガイドライン整備、安全性研究、衛生管理の重要性などが取り上げられました。特に、自由診療である美容医療が一部で過剰施術やトラブルを引き起こしている現状に対し、医学的エビデンスに基づいた対応を医師側に求める姿勢を示しました。
教授が国立大学医学部の教授職でありながら、美容皮膚科を公的医療の文脈で語ること自体が「異色」ともいえ、現場の医師たちに強い印象を残しました。大学附属病院での美容皮膚科センター設置も紹介され、自由診療と標準医療のあいだを橋渡しする取り組みとして、批判と評価の両方があることも事実です。
一方で、医師ではなく出資者が主導する形式が増えている美容医療を医師主導で整備しなおしていくことの必要性は、医療機関の信頼性確保だけでなく、患者保護や保険診療との線引きの明確化にもつながると感じました。
4. 乱立する皮膚科・美容皮膚科と民間医療保険への影響
皮膚科は現在、医学生の人気診療科の一つとなっており、外科や救急などの負担が大きい科を避ける傾向のなかで、女性医師を中心に志望者が増加しています。この結果、都市部を中心に皮膚科・美容皮膚科が急増し、過当競争の様相を呈しています。
特に民間医療保険の領域では、皮膚科によるホクロ切除や「日帰り手術」「小手術」名目の保険請求が増加しており、その医学的必要性が疑問視されるケースも散見されます。ホクロ切除が美容目的であるにもかかわらず、「炎症性変化」や「色素異常」などを診断名として処理することで、公的保険や保険金の支払い対象とする手法も一部に見られるとの指摘がありました。
学会の一部シンポジウムでは、これらの「医療ビジネス化」の傾向に対し、倫理的・制度的な歯止めが必要との提言もありました。民間保険会社と医療機関との関係性や、「患者自己負担ゼロの治療」の訴求による集患ビジネスモデルへの批判も出ています。
また、皮膚科診療の医療資源消費が外来医療費全体に与える影響についても話題となり、特に高齢者の皮膚良性腫瘍に対する外科的処置の増加が医療費圧迫要因となりうるとの分析も紹介されました。
皮膚科クリニックの乱立は単なる診療体制の問題にとどまらず、公的・民間を問わず保険制度の信頼性や持続可能性にも影響を与えるテーマとなっています。今後は、医学的妥当性に基づく施術と保険請求の整合性確保が強く求められる時代になりそうです。
おわりに
今回の皮膚科学会では、皮膚科という領域の社会的インパクトや制度的課題が可視化され、臨床現場だけでなく保険・行政分野への波及が意識された構成でした。美容医療や自由診療の拡大に伴い、ガイドラインの存在意義や、診療内容の透明性がますます重要になっていくことを強く実感しました。
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参考リンク
• 日本皮膚科学会ガイドライン(PDF版)
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/melanoma2025.pdf
• 厚生労働省 医師の地域偏在・診療科偏在に関する報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000194394.pdf
• 朝日新聞:美容医療の合併症と制度対応(2024年報道)
https://www.asahi.com/articles/ASSCD32WBSCDUTFL010M.html


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