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査定情報

(第74回)気楽に読んで査定力アップ!!


――情報学の眼で生命を見る――

生命はデジタルでできている
情報から見た新しい生命像
(田口善弘著 講談社ブルーバックス 1000円税別 2020年5月刊行)



 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「情報工学者の眼には生命現象はどう見えるのか」。テーマそのものがなんだか難しそうですが、著者は物理学科の教授でバイオインフォマティクスという情報工学と分子生物学の境界領域を研究しているらしいです。

 たとえば音楽CDにおいて、デジタル化して保存された情報をCDプレーヤーのヘッドが読み出して出力変換して最終的に人間が聴くことのできる音として出力しているメカニズム、これがいわゆるデジタル-アナログ変換ですが、このアナロジーとして分子生物学を考えてみたらどうなるでしょう。

 遺伝情報の保存庫DNAから特定のRNAが読みだされる。RNAの核酸3文字からなるコードをアミノ酸に読み替えそのアミノ酸を順番につなぐことでさまざまなタンパク質ができる。つながれたアミノ酸は自身が持つ電荷などのため、できあがったタンパク質は特定の3次元構造を形成しそれが生体分子として働く・・・これがいわゆるセントラル・ドグマです。まさにこれってDNAという情報から実際のタンパク分子への「デジタル-アナログ変換」と考えることもできます。

 そういうデジタルな処理系として分子生物学を眺めてみると・・というのが本書。言われてみれば確かにそうだと思うことばかり。さらに、少しでもプログラムをバグると動かなくなるコンピューター処理の繊細さ(Fragile)に比べて、生命のデジタル―アナログ変換は少々の読み間違いやバグ(例えば SNP:1塩基が入れ替わった状態)があってもなんだかんだで仕組みを動かす頑強さ(Robust)を持つことも特徴的です。そればかりか、バグもまた進化のタネになったりする・・・なんて柔軟なデジタル処理。

 特に、最近話題になっているゴミみたいなものと思っていたmiRNA(マイクロRNA)がまさにデジタル信号としてDNA→RNA、RNA→プロテインの制御にさまざまにかかわっていることが具体的によくわかり、miRNAを再認識させられました。さらにlncRNAや環状RNA、そこからプロテインの3次元構造(ここらが最先端でなかなか解明されなさそう)と読み進むと、なるほど生体とは複雑すぎて人間の理解を凌駕はしているものの、つきつめていくとデジタルな構築物なのだという新しい認識に到達します。

 生物学や医学から分子生物学にアプローチしてきた私にとっては、まず生き物としてのアナログな自分があって、その下支えとしてDNA-RNA-タンパク質のセントラル・ドグマがあるという認識でした。しかし、情報工学や物理学の専門家が分子生物学を見た場合にはまずDNA-RNA-タンパク質という情報処理系があって、これはまさにデジタル-アナログ変換であり、それが超複雑にからみあって生き物が構成されているという真逆のイメージなのですね。読み終わると、生体が赤血球や細胞や細菌のイメージからくる生もの感から離れて、何とも自分の中に広がるデジタル世界を感じて不思議な体験です。

 人間は自分自身が意志をもって生きているからか、体の中の遺伝子や細胞も意志的に行動しているような誤った認識があるのではないでしょうか。例えば、細菌が侵入してきた場合、白血球自身が「やっつけてやる」という意志をもって細菌を攻撃するという漠然とした思い。しかし、実際にはそこに意志などあるはずもなく純粋な化学反応の積み重ねなんですよね。本書のおかげで生命現象をデジタル現象であると捉えなおすことができました。そのおかげで「働く細胞」や「もやしもん」のような漫画の影響で作られた「体内の現象の多くが意志的である」というような考えが幻想にすぎないことも理解できます。これは気づいてみればなかなか愉快!

 このように自分とは異なった知識ベースの人の話に耳を傾けることは結構重要です。アンダーライティングの世界に近いところではアクチュアリーは理学部数学科の出身の方が多いですよね。彼らの目には生ものの人間ではなくデータとしての人間が見えているのかもしれません。人それぞれ、受けた教育によって同じものでも違った見方をしていることにも気づかされる一冊でした。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年7月)



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