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査定情報

(第73回)気楽に読んで査定力アップ!!


――世界を席巻する反ワクチン運動!――

反ワクチン運動の真実 死に至る選択
(ポール・オフィット著 地人書館 2800円税別 2018年4月刊行)



 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「世界の反ワクチン運動」。COVID-19パンデミックで世間はすっかり「ワクチン欲しい」状態になっていますが、反ワクチン運動は今どうなっているのでしょう。

 日本では子宮頸がんのHPVワクチンに対する反ワクチン運動が記憶に新しい―というよりも現在進行形ですが、世界的に見れば「反ワクチン」は種痘の時代から連綿と続いているんです。本書の原著は2010年初版ですがHPVワクチンの騒動を受けて2018年に日本語版が出版されました。世界の反ワクチン運動を学ぶならこの本がおすすめです。

 18世紀のイギリスでジェンナーにより発見された牛痘接種は天然痘による死者を半減させ19世紀にはイギリスで未接種には罰則を課す法定接種となりましたが、同時期に世界初の反ワクチン運動が発生しています。このイギリスの反種痘運動は社会運動として成功し、ワクチン接種が一部任意化されてしまったためロンドンで天然痘が大流行し多数の人が死亡することになります。

 アメリカの反ワクチン運動も次から次へと起こるのですが、エポック・メーキングなのは1970年代のDPTワクチンと2000年代のMMRワクチン。本書を読むと事件の基本的な構造はDPTでもMMRでも、日本のHPVでもほとんど同じだということがわかり、人間には根源的にワクチンへの怖れがあるのでないかと考えさせられます。

 DPT(3種混合:ジフテリア・破傷風・百日咳)を例にとれば、何万人の乳児に接種すればが、接種とは無関係に一定の確率で突然死や脳障害が発生することは自明のこと。しかし実際にわが子がそうした悲劇に見舞われれば、その悲劇の原因を外に求めたいもの。ほとんどの乳児がワクチンを接種されているのですからワクチン接種と発病の時間的連続を因果と混同し、ワクチン接種が突然死や脳傷害の原因だと思い込む(思い込みたい)ということが起こるのです。DTPのときには「DPT・ワクチン・ルーレット」というテレビのドキュメンタリーが火をつけました。メディアの功名心もそこにはありました。メディアが火をつけた結果、大きな社会問題となり医療訴訟が多発します。被害者は善、国・ワクチンメーカーは悪というわかりやすい図式は陪審員制度のもとでは多額の賠償金支払いという結果を生み出します。挙句の果てに小児科医がワクチンの接種を控えたことにより百日咳での死亡者数が急増しました。

 MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)ワクチンで自閉症が起こるという今に続く反ワクチン運動はDPTの20年後1998年に勃発。MMRワクチンと自閉症には何の関連もありませんが、ちょうどDSM-Vで自閉症と診断される幼児が増えてきていたことやMMRワクチン接種年齢と自閉症が判明する年齢が近いなどの偶然が重なり、自閉症児の親が自閉症はワクチンの副作用だと言い始めそれを後押しするような論文を書く医師も出現しました。結局はその論文は患者団体有利にするために医師による捏造だとわかりその医師は免許をはく奪されました。これで一件落着・・かと思いきやこの医師は陰謀の犠牲者として祭り上げられ、今でも反ワクチン運動のシンボル的人物となっています(ウェークフィールド事件)。そして、この運動はおりしもネットやSNSの時代と重なったためハリウッドスター(ジム・キャリーやロバート・デ・ニーロなどが活動家として有名)や政治家がブログやSNSでシロウト論争を繰り広げる事態に。騒動は今も落ち着いていません。

 ワクチンを打たなくても病気に罹らないのは集団免疫により病気が抑えられているからです。ワクチンを打たない子供が増えると集団免疫は崩壊します。感染者の増加→ワクチン接種→感染の減少(集団免疫の達成)→反ワクチン運動→接種率の低下→集団免疫の崩壊→感染者の増加・・・という大きなサイクルがあり、その中ですでに反ワクチン運動が重要な要素となっているわけです。

 本書によれば、反ワクチン運動を抑え込むには感染症の被害者や家族によるワクチンを推進する運動が効果的らしいです。日本の反HPVワクチンに置き換えて考えると子宮がんで手術をした女優さんなどがそういう運動をすることになるのかな。COVID-19で反ワクチン派の意識がどうかわるのか、要注目です。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年7月)



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