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査定情報

(第62回)気楽に読んで査定力アップ!!


――決して昔のことじゃない――

改訂新版 石の綿―終わらないアスベスト禍
(松田毅・竹宮惠子監修 神戸大学出版会 900円税別 2018年7月刊行)



 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「アスベスト」。東京に住んでいたころは、アスベストによる健康被害(主に悪性中皮腫と肺がん)は、西日本のことで、どこか遠くの昔話みたいに考えていました。しかし、毎年発表されるアスベスト被害による死亡者の勤務先を見ると東京湾岸の旧造船所地帯も他人事ではないんです。さらに震災ガレキでのアスベスト曝露など新しい問題も出現しています。

 基本的な知識は知っておきたいアスベスト被害、最適な本を見つけました。そのタイトルも「石の綿」です。「石の綿」は1部・2部に分かれており、第1部ではアスベスト被害のさまざまな局面を6人の漫画家が6編の漫画で描きます。
①「洗濯暴露」家族が工場で石綿まみれになり、それを洗濯しつづけた妻。夫婦ともども悪性中皮腫に。
②「クボタ・ショック」尼崎市のクボタの工場では工場労働者だけでなく周辺に降り注いだ石綿で住民にも悪性中皮腫が発生。
③「泉南―国賠訴訟の原点」大阪府の南、泉南地区は戦時中から石綿関連中小企業が多く特に軍需石綿を加工しており多数の悪性中皮腫が発生。
④「震災とアスベスト」阪神淡路地震から25年経ち、当時のがれき処理に携わった中からも悪性中皮腫が発生。
⑤「アスベスト・ポリティクス」アスベストの利用開始から最盛期、そして健康被害の発生、使用の禁止という流れを世界と日本に分けて年表形式の漫画にしてくれました。
⑥「エタニット―史上最大のアスベスト訴訟」規模と被害者では世界最大といわれるアスベスト禍となったイタリアのエタニット事件を描きます。
 どれも興味深いのですが特に自然災害でガレキが発生することが増えているので④の「震災とアスベスト」は身近な恐怖です。東日本や熊本の大地震のガレキ処理やそれ以前のボランティア作業のニュースでもアスベストを意識したものはほとんど目にしたことがありません。

 高度成長期(日本のアスベスト使用ピークは1974年です)に作られた建物には大量のアスベストが使われています。普通の解体作業ではみなさんご存じのようにアスベストを排出しないような規制のもとに行われていますが震災ガレキではそうはいきません。今後も首都直下型地震や南海トラフ地震などが予測されている中、アスベスト問題がよみがえってくるというわけです。

 第2部は報告書形式の文章。これも読み応えあります。特に重要なのは曝露から発症・死亡までに数十年というタイム・ラグがあることです。アスベスト問題が日本より10年先行しているイギリスではアスベストによる中皮腫・肺がんのピークが2015年だったというデータから、日本でのピークは2025年頃・・つまり、これから5年間急増していくことが予想されるんです。年間最大数千人規模と予測されていますから全肺がん死亡者の10%くらいになる可能性があります。

 毎日、通勤電車で尼崎を通過しますが今もクボタの工場(跡地?)が広がっています。どこか遠くの昔の話だと思っていたアスベスト被害、それがつい最近まで使われて日本中の建物にいまだ残っている。認識を新たにしました。

 編者の一人、竹宮惠子さんは「地球(テラ)へ・・・」などのマンガ作品で有名ですね。京都精華大学大学院マンガ研究科の教授をされていらっしゃるようです。神戸大学と京都精華大学のメンバーが制作し神戸大学出版会が発行と異色の漫画本です。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana2020年1月)

    

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