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査定情報

(第59回)気楽に読んで査定力アップ!!


――安倍最長政権を支えたもの――
免疫と「病」の科学
万病のもと「慢性炎症」とは何か
(宮坂昌之・定岡恵著 講談社ブルーバックス 1100円税別 2018年12月刊行)



 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「慢性炎症」。

 「慢性」と「炎症」というありふれた言葉の組み合わせですが「慢性炎症」と一つになると特殊な意味を持ってきます。まずは、カバーに書かれたキャッチコピーをそのまま引用――最新免疫学が「万病のもと」の正体を突き止めた!・・・一過性で終わるはずの炎症反応がだらだらと続く「慢性炎症」。最新の免疫学の研究で、だらだらと続く「慢性炎症」が、「がん」「肥満、糖尿病」「脂質異常症」「心筋梗塞」「脳梗塞」「肝炎・肝硬変」「関節リウマチ」「認知症」「うつ病」「潰瘍性大腸炎」などの発症にかかわる、万病の素であることがわかってきた。健康長寿の人生を送るためには、この慢性炎症を解消することが不可欠だ。日本の免疫研究の指導者として知られる著者が、慢性炎症の治療法と予防法を平易にわかりやすく解説(引用終わり)――という具合で「慢性炎症」が原因でありとあらゆる病気が起こるようかのようで・・・ホンマかいな。

 実際に読んでみると、IFN・IL・TLR・PAMP・DAMPと略語のオンパレードでわかりづらい。そこで、私が理解した範囲でかなり大胆に読み解いてみます。

 まずは「獲得免疫と自然免疫」の違いを理解する必要があります。「獲得免疫」とは、はしかにかかると二度はかからないというようなタイプの免疫。病原体に感作されたリンパ球が病原体を認識・記憶することで次に同じ病原体に遭遇したら特異的に強烈に攻撃します。一方「自然免疫」はそういう感作というようなステップを踏まず、なんか怪しいものに遭遇したらとりあえず攻撃しようという仕組み。その主役は食細胞であるマクロファージや樹状細胞などです。細菌表面に多く存在するペプチドグリカンやリポ多糖など非特異的な物質をアバウトに認識してインターロイキンなどが増えそれが食細胞を呼び込みます。まずは自然免疫で大まかに防御しつつ必要に応じて獲得免疫でしっかり防御という二段構えでわれわれの体が守られているということです。

 もう一つ「自己免疫性疾患と自己炎症性疾患」の違いも重要。リンパ球主体の獲得免疫系が自己成分に反応して(交差免疫)自分自身を攻撃することで起こるのが「自己免疫性疾患」(SLEやリウマチ)。一方、自然免疫系が過剰に起こった状態が「自己炎症性疾患」と考えていいようです。自己炎症性疾患という概念は比較的新しく「家族性地中海熱」や「クライオリピン関連周期熱症候群」など最近になって耳にすることが増えました。自然免疫はもともと特異性の低い認識であるため、本来の目的である細菌などの外来物ではなくわれわれの体内組織のちょっとした異変に対して自然免疫が引き起こされ炎症反応が起こります。

 例を挙げると、痛風では尿酸の結晶が刺激物質となって自然免疫を発動させ、インフラマゾームを活性化しそれがインターロイキンIを活性化し、それが局所(関節内)に好中球やマクロファージを呼び込み、関節に強い炎症を引き起こすというわけです。痛風の伝統的治療薬コルヒチンの作用はインフラマゾームの活性阻害効果によるものであることがわかり痛風もまた自己炎症性疾患だとわかりました。コルヒチンが家族性地中海熱に効果があるのも同じ理屈です。

 しかし、自然免疫の過剰発動and/or抑制不足が主因となって「慢性炎症」を引き起こすとしても、「それが万病の原因」というのはやはりちょっと著者の言いすぎですね。「慢性炎症」は組織障害の原因なのか結果なのかはたまた交絡因子なのかは多くの疾患ではまだわかっていません。そのあたりは批判的に読む必要も感じました。

 そんな中、「慢性炎症」に着眼することで開発につながった薬剤の例をあげれば、潰瘍性大腸炎の治療薬ペンタサ(炎症性サイトカイン抑制効果)、グリベック(TNF-α抑制効果)などがあげられます。オプジーボと並んで現代免疫学の偉大な成果です。潰瘍性大腸炎に罹患し一度は退陣した安部首相がそんな薬剤の恩恵もあって首相在任の最長記録を樹立したことを考えると、まさに健康もまた時代とともにありと感じますね。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2019年12月)

    

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